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楽しそうに将来のことを語る二人にタケシは複雑な気持ちで聞いていた。嫉妬するくらい仲の良い二人なのだ。
もしかして付き合っている? 村一番の美男美女のカップル? そんな関係を現在進行形で邪魔していたら恥ずかしいんですけど。
シルヴィアの回復魔法で体力も回復していたはずなのに歩くたびに足は重くなる。気持ちを切り替えて行きたいが、ミニゴブリンのトラウマも重なって中々立ち直れない。
「どこか具合が悪いのでしょうか?」
「い、いえ! 大丈夫ですよ!」
気が付けばシルヴィアの顔が近くにあった。こちらの様子を心配するように見ていたが、怪我をしていた肩を回して大丈夫とアピールする。
「村まであと少しですから頑張ってください!」と応援してくれる彼女に心が温まる。ニヤけた表情にならないように気を引き締めようとすると、
「おい」
シルヴィアが少し道の先に行った後、後ろからルドルフが声を掛けて来た。
進行を遅らせたことに怒ったのだろうか? ルドルフに向き直り、とりあえず謝罪から入って―――
「俺のシルヴィアにあんまり近づくんじゃねぇよ」
「うぐッ…!?」
ドスの利いた声で胸ぐらを掴まれる。ルドルフは敵意を剥き出しにして俺を睨み付けていた。
仲良くシルヴィアと会話していたルドルフの姿はどこにもない。何が起きたのか一瞬理解できなかったが、ルドルフの続ける言葉を聞いて何を思っているのか理解することになる。
「いいか? アイツは俺の女だ。何が言いたいか分かるな?」
それは、他人を傷付けるくらいの強い独占欲だった。
涙目になりながらルドルフの問いに何度も頷いた。
最後はシルヴィアに気付かれないように俺を突き放し、後を追い駆けて行った。
二人は少し何かを話した後、シルヴィアが笑顔で手を振った。
それに応えるように俺も怯えながら手を振る。シルヴィアの後ろからルドルフがまた睨み付けているが、あまり意識しないようにする。
「……もうやだ異世界」
泣きそうな声でタケシは呟く。その声は誰の耳にも届かなかった。
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