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……分かってた、つもりなんだけとな。
俺、井上伸也は、表に出すまいと思いながらも内心で落ち込んでいた。
何が分かっていたつもりだったか? 勿論、この俺の持つ、能力というか体質というか、その事についてだ。
──俺には、霊の声が聞こえることがある。
幼少の時より時折、不意に聞こえてくることがあった死者たちの、主に無念の声。
俺が今刑事という職業に就いたことに少なからず影響しているこの力は、しかし、刑事である上でいくつか心得なければならないことがある。
どうやら俺のほかに、このような声を聞く者というのは居ないらしい。少なくとも、俺の周りには。
故にどうやら霊の声を聞いたとそのまま言っても大体信用されない。むしろ却って信頼は下がる。
結局のところ、きちんと捜査し、推論を第三者に納得させうる証拠を見つけ出さなければならない。その手続きは変わらない。
犯人だけではなく、動機、トリック、凶器の隠し場所など被害者がきちんと話してくれれば違うのだろうが、聞こえる声はそこまで都合のいいものではなく、初めから聞こえるのは大体、曖昧な感情や一言くらいの、何かの叫びだった。
それでも、犯人が指摘されるなどして分かるのは大きいのではないか? ──そもそも、俺がこの『声』によって指摘する犯人など、初めからちゃんと容疑者に入っていることが殆どだ。
先入観を持って、分かっているつもりで捜査に臨めば、見つけられるものも見落とす。そう窘められることもあった。最もだと思う。
役に立つとすれば、俺のこの声がこれまでの捜査とは違う方向の何かを見つけ出した時で……だがまあ、実の所、そんな事件というのは滅多にない。
──総じて、俺のこの力が、刑事として役に立つかというと、別にそれほどの物ではない。
だから今回聞こえたこれだって、「大して役に立たない」よくあるパターン。その一種。そう思えば良いだけで。
だから、それでもなんか凹むのは。
役に立たないことそのものじゃなくて。ちゃんと、そう言い聞かせていたつもりで、全然割りきってなんかいなかった。そのことを自覚させられたからなんだろう。
今回、今回ばかりは、俺はこの声を全く役に立てることが出来ない。
その事に落ち込むってことは、結局、俺は自分の自覚以上に、刑事としてこの能力に依存してたって事なんだから。
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