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中学校に上がっても亜実の参拝は続いていて、悩みの告白をされることも多くなった。探し物程度であればかろうじて残っている権能から探し当てることもできるが、それを伝えることはできないし、人間関係の悩みなどどう答えてやればいいのかわからない。
――そんなときにされたのは、恋の相談だった。
「酒井のこと、好き、なのかな」
「……え」
一瞬呆然とてしまった。同時にああ、と声が漏れる。きゅう、と胸が締め付けられる。
「それは本当に、素敵な、とても素敵なことだよ」
聞こえていないはずなのに、亜実はほんのりと顔を赤く染めて微笑んだ。
「がんばります。付き合えます、ように」
可憐な少女だったはずの彼女は、確かに少しずつ大人になっていた。黒く長い髪は美しく、いつもまっすぐな瞳は愛らしい。僕とはどんどん距離が離れていく。もう「おにいさん」ではない。
「応援、しているから」
応援しなければいけない。なぜ、こんなことを考えなければならないのだろう。僕は神だ。いけにえではない人の子とはそもそも……。
些細な喜びを話してくれるようになった。今日は挨拶を向こうからしてくれた。消しゴムを貸した。ちょっとした日常の一コマを、恋は幸せにしてくれているようだった。
それは僕にとってもうれしく、幸せなことであるはずで。
「付き合うことになっちゃった」
嬉しそうに話す亜実を見て、初めて話を聞きたくないと、そう思った。
恋か。僕が、彼女に。
「あ――」
名を呼ぼうとして、口を閉じる。僕は彼女の幸せを望んだはずだ。ならば、喜ばなければ。なぜ、なぜ。
「なんで……」
僕には、彼女を幸せにする権利はないのに。どうしようもなく涙が止まらなかった。
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