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「危ないよ、降りて!」
その言葉に、男の子は少し沈黙してから拍子抜けしたようにははっと笑った。
「そうだね、降りて話をしようか」
ひょいと社から飛び降りたかと思うと、地面にぶつかる直前に重力を無視してふわりと浮き上がる。そのままゆっくりと着地したのを見て、ありえない光景に目を丸くした。
普段ではめったに見られない黒いおかっぱの髪に、童水干と呼ばれるような和服を身につけている。足元は紺色の鼻緒の下駄。白の上衣に水色の下衣が着なれているように様になっていて、余計に彼の存在を疑ってしまう。
私の困惑している様子は気にも留めずに、カコンカコンと音を立てて近づいてきた。身長は私の胸のあたりまでしかない。
「見えてしまったからには仕方ないか。僕は呼子神。ここに鎮座する神だよ。まあ、既にその力はほとんど残っていないけれどね」
「呼子神……?」
毎日参拝していたが、この神社が祀る神様についての知識はなかった。ただ、昔からなぜかここに毎日足を運んでいる。親にもこのことは伝えていない。
「そう。この地に神隠しの伝承が残っているのは僕のせい。子供をもらうかわりに、辺り一帯を守っていたのさ」
「神隠し……」
確かに、『隠し子は神のいたずら諦めろ』というような言い聞かせがあるくらい、昔から神隠しのある町として伝えられている。そんなもの、迷信だと思っていた。
「えっ、もしかして、私神隠しされちゃったの?」
呼子神は慌てて首を振って否定した。
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