1・ゼロ部隊

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1・ゼロ部隊

 けたたましく鳴り響くサイレンの音。東京都墨田区、JR錦糸町駅の南口の雑居ビル周辺は野次馬でごった返している。風俗店、場外馬券売り場などの利用でも名の知れたこの界隈のためか野次馬の年齢層も高く、圧倒的に中年から老年の男ばかりだ。 「下がってください! 危険です!」  その整理に追われる警官たちの叫び声が響く。 「野次馬をもっと下げろ!」  テープを張るがそれを押して前に出てくる野次馬たち。 「中には何人くらい人が残っていましたか?」 「私のところで8人です。たぶん!」  警察官が篭城されたフロアの社員の男に聞いている。 「8人くらい残っているそうです!」 『それ以外のフロアの人間は避難完了しているのか?』 「ハイ、確認した限りでは!」  無線でもやりとりしていた。  パトカーは10台近く無造作に駐車され警察官達が同じビルを見上げている。5階建ての雑居ビルだ。警視庁と表示されたパトカーは高級車クラウンがベースになっているもの。  特に大きな音がするわけでも、何かが発生している様子も無いそのビルをただ見上げている警察官にならって野次馬達も一緒に見上げていた。 「おまわりさん、何が起きたのよ?」 「いいから向こうへ行って!」  老人が警察官に質問をするがこのような感じである。  ビルの真ん前に付けているパトカーの無線で何やら揉めている。 「だから、我々はどうしたらいいんですかぁ」 『本所警察は人質の安全確保、制圧後の人質の迅速な誘導に努めてくれ』  本所警察とは地元墨田区の警察署である。 「だから、何が起きているのか情報が何も無いんですよ! SAT(特殊急襲部隊)でも呼んでくれるんですか?!」 『もう動いている。制圧するまで待つように、どうぞ!』  ここの署長だろうか、何やら地元警察署では対応できない事件のようだ。
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