1・ゼロ部隊

6/6
前へ
/182ページ
次へ
 車に乗り込む二人。男は上着を脱いだ。しわになるのが気になるようだ。 「メイヨウ、わらび餅食べる?」 「あ、食べる食べる」  と箱に入ったわらび餅を竹楊枝で摘み取る。 「小暮さんは?」 「俺はいいです。きな粉が落ちる・・・」 「あ~美味しい! やっぱ、きな粉と黒蜜が最高ね」 「でしょう? さっき扇屋の前で張り込んでいたから暇で買って来たんだ」 「さすがマーメイ、気が利くねっ」  むしゃむしゃとパクつく二人を見て 「あなた達はいつまで名前で呼び合うわけ?」  と小暮が言うと応えるメイヨウ。 「え? どうして? これはコードネームよ」 「私たちの本名はちゃんとあるのよ。だからいいじゃない」  マーメイも返した。 「だってそれは以前の名前でしょ?」  怪訝な顔をする小暮。 「でも癖が付いちゃっているから、丁度いいじゃない。間違えないし、本名じゃないし。私が長谷川美友(みゆ)、お姉ちゃんが星川麻美(まみ)なんだし」 「どうして双子で未婚なのに名字が違うわけ?」  小暮はポカンとした表情で聞く。 「新たに0から個人で戸籍を貰ったの。ちゃんとお国からネ。好きな名字にしていいよっていうから、お互い好きな名字にしたの」  とメイヨウ。 「どうして長谷川なの?」 「別にいいじゃん。好きなんだもん」 「まぁいいけど、好きなら。マーメイは? どうして星川?」 「可愛いじゃない。〝スターリバー〟なんてロマンチックじゃない」 「あぁそうだね・・・」  何とも煮え切らない顔で二人を見る小暮。 「吉田さん、もう一つ食べる?」  運転手に聞くマーメイ。 「僕はもういいです」 「じゃあ私がもらう。これ大好き」  きな粉を唇に付けて笑うメイヨウ。
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

543人が本棚に入れています
本棚に追加