大きな金魚

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

大きな金魚

 友達と行った縁日で、話の流れで金魚すくいをすることになった。  代金と引き換えにぽいとお椀を受け取り、水槽の端にしゃがみ込む。  金魚すくいは割と得意な方だ。さて、どれをすくおうか。  少しでも大きい金魚を物色していたら、赤い群れの中から一匹の金魚が俺の方に寄って来た。  他より一回りくらい大きい金魚。そいつが自分をすくえとばかりに寄って来て、しかも俺を見上げている気がする。  獲物としては充分なサイズだが、なんだか嫌な予感がして手を出さずにいると、隣で水槽を眺めていた友達が迷わずその金魚をすくった。 「大物ゲット~」  友達が自慢げにそうつぶやく。でも悔しさはまったくなく、むしろ俺はほっとした気分だった。  その日から数日後、友達が死んだ。自宅にいたところを侵入してきた何ものかに殺害されたというのだ。  警察は友達の交友関係を調べ、俺のところにもアリバイなどを聞きに来たが、その日俺は接客のバイトをしていたので疑いが向けられることはなかった。  その時聞いたのだが、強盗にしては金目の物は一切盗られていないのに、何故か友達の家にあった金魚鉢だけが壊されていたという。  ふと気になり、妙な疑いがかけられないよう、金魚鉢が壊されたということは、先日縁日ですくったばかりの大きな金魚も死んでしまったのか…という聞き方をしたら、水の入った鉢は床で粉々になっていたのに、金魚は一匹たりと周囲に存在していなかったそうだ。  あの時感じた嫌な予感がぶり返す。もしや友達はあの金魚に殺されたのではないだろうか。  こんなことを口走ったら、確実に頭がおかしい人間だと思われるに違いない。だから口外はしないけれど、あの日、俺を見ている気がした大きな金魚を思い出すと、俺は自分の考えが当たっている気がしてならない。 大きな金魚…完
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!