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 ふと気付くと、母が冷蔵庫から目玉焼きにかけるソースを出してきていた。また、忘れた。  何もかけずに目玉焼きを食べていた。不審に思われないだろうか。  母が黙って父の目玉焼きにソースをかけている。だが、こちらには一瞥もしない。  文字通り味気ない目玉焼きを御飯の上に乗せ、味噌汁をかけてすすりこむ。息を止めて、吐き気がしないかどうか、確かめる。  そそくさと席を立ち、牛乳とヨーグルトとバナナと蜂蜜をあらかじめ入れておいたミキサーをかけてバナナシェーキを作り、三つのカップに分けて、それぞれの前に置く。初めから作っておけば手間が省けるのだが、時間が経つと色が黒くなるのがイヤだという、“あれ”の一言でいったん食べ終えてからいちいち作るようになったのだ。  バナナシェーキは抵抗なく喉を通る。わざわざ一汁一菜など用意しなくても、これだけで朝食済ませていいのではないか、とふと思う。だが、一応固形物を胃に入れているから無茶飲みしても、まだ体がもっているのだ、と自分に言い聞かせる。     
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