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 きちんとスーツを着てネクタイを絞めた働き盛りの年頃の男とすれ違った。外観だけだったら、自分も似たようなもののはずだ。すれ違いざま、ちらと視線をやるが、相手は見向きもしない。そんな暇はないのだろう。また、こっちも見かけはそれほど変ではないのだろう。そう思うことにする。  汗がどっと噴き出てきた。飲んだビールがそのまんま汗になったみたいだ。たまらず汗をハンカチで拭くが、すぐぐしょぐしょになってしまう。まったく、スーツというのはなんて暑苦しい格好だろう。  たまらず、引き返した。幸い、やっと図書館が開いていた。  中に入ると、冷房はきいていないが日射しをさけられるだけ楽になった。  もう数人が入館している。年輩の、隠居暮しをしているらしい人もいるが、ずっと若いせいぜい40代らしき人もいる。何をしている人なのか、わからないし、知りたいとも思わない。先方もおそらく同じだろう。  ぼくは本棚を見てまわった。  集中力が落ちているから、まとまった本は読めない。雑誌コーナーに行き、適当に選んでぱらぱらめくる。すぐ別の雑誌を手に取り、拾い読みして戻す。  席の温まる間もなく、手洗いに行く。  誰もおらず、人に見られる心配もなさそうだが、念のため個室に入って鍵をかける。鞄を開け、再びミニボトルを出す。深呼吸し、中身をぐいとやって、すぐ外に出て洗面台の蛇口をひねり、水を掌ですくってがぶ飲みする。ちょっとでも酒というより薬のような味が口の中に残らないよう、口のなかを水ですすぐ。     
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