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 自分だけではなく、上司たちも普段何をするというでもなかった。一種の閑職のたまり場みたいになってたらしい。それでも時々思い出したようにテレコールしていた。ただ、相手は学生のようだった。就職の決まらない学生に電話し、あわよくば会社に呼び出して、そこそこの相手だったらさっさと内定を出してしまう。自分がそうだったように、いやに簡単に内定が出てしまう。こんなに簡単に出していいのたろうかと思ったら、すぐそれでいいことがわかってきた。  人事に来てすぐ、研修で一緒だった連中が次々と辞めていくのがわかった。作ったばかりの名刺が、百枚揃ったまま一枚も使われることなく、シュレッダーにかけられて粉々になっていくのを、何度も見た。見覚えのある名前ばかりだった。まだ配属になって三ヶ月と経っていないのに、続々と辞めていく。  要するに、とにかく人数を揃えるのが大事なのだ。もともと歩留まりが悪いのだから、どんどん採用して、辞める者は辞めてもらって結構、というより全部残られたらむしろムダに人件費がかかっていけない、という態度なのだろう。客がほとんど新規の客ばかりで、リピーターはほとんど出ないから常に幅広くテレコールしてまわって新規客を開拓しなくてはいけないのと、同様だ。  使い捨てか、と今更ながら思ったのを覚えている。  能力開発室勤めは間もなく解かれ、元の営業部に戻された。同期の中には、すでに新規を開拓した者もいた。     
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