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不思議とあやまる気はしなかった。理屈からいくとあやまるいわれはないのだが、普通こういう時は頭下げるものではないかと頭では思ったが、あやまりはしなかった。会社の代表あるいは代わりという意識がまったくなかったからだろう。普通に礼を言い、勘定は自分が持って、それで話は終わった。相手もこっちに対して、文句もアドバイスもしなかった。
ついに、電話をかけるふりをして受話器に向かって一人芝居を始めた。名簿を見ながら、実は存在しない番号にかける。あるいは、#ボタンや*ボタンをさりげなく押す。そしてどこにもつながらない電話に向かい、いかにも誰かと話しているようなふりをする。これで一応、仕事をやっているように見えるはずだった。
しかしそうしているうちにも、先輩同僚の何人かは実際に電話ではなく会って話を聞いてくれる誰かをひっかけていく。先輩には、行って帰ってきて、びっしり札束が詰まった鞄を持って帰ってくる者もいた。あるところにはあるものだ、と思った。
そういう成績はもちろんグラフになり、表になり、一目で誰がどんな成績をあげているかわかる。底にぴったりへばりついているのが、自分も含めて数人いた。
そのうち、これまた嘘の相手をでっちあげて、会ってくると称して外出した。だが、外出して一息ついたはいいが、もちろん相手がいないのだから契約などとれるわけがない。携帯の電源を切り、あてもなく街を歩き回った。コンビニに入り、焼酎の小瓶を買い、ビールをチェイサー代わりにして飲み干した。
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