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 そんなはずはない。アル中の幻覚か。いや、幻覚というのは酒が切れると出てくるものではないのか。本当に誰か見ているのか。  今日は天気もいい。一日屋内に閉じこもっていることはない。散歩でもしよう。  追われるようにそそくさと立ち、外に出る。  腹が立つほどいい天気だ。雨に振られるのも嫌だが、こうやって意味もなく天気がいいのも、癪にさわる。  隣駅まで行って帰ってくることにする。歩いていると日が首筋にさしてきて、汗がいやにだらだら流れた。心臓がバクバクする。体の中がひどく暑苦しい一方で、首筋や背中に出る汗は出る前からもう冷えてしまっているようだった。  これは、いけない。直感的にそう思った。そういえば、何日酒が抜けていないだろう。一週間? 二週間? 今日は何日だ? さっきの図書館で新聞の日付けを見てくればよかった。何をしているのだ。携帯を持っているではないか。腕時計は前のが壊れたきり買っていない。収入がないのだから、買っていいわけがない。  携帯は、今どき持っていないと不審がられるので、持つようにしたら芋づる式に家族割引だなんだと代理店に言い包められて一式持たされてしまった。実際問題として、仕事のない人間に緊急の連絡などそうそうあるわけがない。通話だウェブだと使っていたら、いくらかかるかわからない。     
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