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その間、こちらは新聞を取りに行く。テーブルに広げて読むふりをする。ニュースはテレビかインターネットかでとっくに知っていることばかりだから、わざわざ読むまでもないのだが、読んでいるふりでもしないと間がもたない。
父が顔を洗い、鬚を剃っている。後にすればいいのに。席につくと、すっとインシュリンの注射セットを出す。血糖値を計り、いちいち手帖に記録し、注射する。面倒な話だ。だがそうしないと目が見えなくなったり足を切らなくてはならなくなるというのだから、仕方ない。
血がつながっているのだから、こちらも糖尿の因子は持っていると考えなくてはならない。だから本当は酒のがぶ飲みなどしていいわけがない。カロリーも高いし、膵臓を痛めるのでインシュリンが出なくなるという。そう知っていて、だがまだ一本残っているチューハイのロング缶で頭が一杯だった。
アルコールの匂いが鼻をついた。一瞬、自分の匂いかと思ったが、注射前の消毒用エタノールのものであることがすぐわかった。いくらかでも自分の匂いが紛らわされるのを、期待した。
フライパンにサラダ油をほんの少し入れて、火をつける。油が温まってサラサラしてきたのを懸命にフライパンを傾けて全面に広げる。これでカロリーオフのつもりなのだ。
フライパンを振っているうちに、頭がぐらっとしてきた。
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