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 そのままコンロの上に置いておく。味噌漉しを使わなくても、湯につけておけばふやけて溶ける。フライパンの下の火を消す。フライパンの蓋の下で、水と油がはじきあっている音が響いている。  酔っているのに、刃物や火はできるだけ使うな。まだそういう理性が働いているようだ。  炊飯器の蓋を開け、しゃもじで縦横に切るようにして混ぜる。全体を均一にするため、と母に教わった技だが、本当に味が変わるものかどうか、わからない。感覚が麻痺していなくても、わからないと思う。  お茶をいれるのを忘れていた。急須の蓋を開けると、お茶の出し殻が入ったままになっている。また一つ余計な手間がかかる。内心うんざりするものを感じながら、シンクに持っていって中身をざっと開けて水で洗う。三角コーナーに水切り袋がセットされていないので、茶の葉はそのまま下水に流してしまう。いいことではないが、仕方ない。  頭の中に何か詰まっているようだ。細かいところに気がいかなくなっている。アルコールがまわると、ちょっとしたことができなくなる。というより、ちょっとしたことこそできなくなる。  やっとの思いで御飯と味噌汁をよそう。足元がふらつき、雲を踏んでいるようだ。     
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