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目玉焼きの出来はまあまあだった。白身に細かい穴がぽつぽつと開いている。見てくれも悪いし、舌触りも良くないだろう。一度火を止めた時の余熱が思った以上に残っていて、沸騰したせいらしい。まあ、腹に入れてしまえば、一緒だろう。
一汁一菜に、お茶に細かい残り物。完璧だ。
“あれ”はまだ新聞を読み続けている。声をかけると、テーブルに見ていた紙面を開いたまま置く。ちらと見ると、求人面だ。意識してこっちに見せようとしているのだろうか。あと一月で35歳で、事務職の経験のない人間とすると、ほとんど見てもムダに思えて、目をそらしたまま新聞を畳んで片付ける。
ほとんど自動的に食卓に三人集まり、食事が始まる。もっとも食べ出すタイミングはバラバラだ。父はまだ新聞を読んでいる。母は洗濯物から下洗いするものを分けている。
自分だけ真っ先に、ぼそっと小声でいただきますと言う。だがいざ食べようとして、箸が出ていないのに気づく。
くそっ、なんでこんな簡単なことを忘れるんだ。
箸は洗い槽に干したままになっていた。取って戻ると、父も母も食卓についている。いや、“父”と“母”という感じが感覚の麻痺とともに薄れてきていた。“あれ”と“それ”とでも呼んだ方がぴったりくる気がしてきた。
食べはじめる。少しもうまくない。むっという温気が鼻をつく。息をとめるようにして、かきこむ。
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