ジョギング

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「なんだか幽霊みたいね―」それは裕子の母親が言った言葉。 裕子と母親が病院に父親を見舞に行ったときに、病院の廊下を歩く父親を見て言った言葉だ。 裕子の父親は2か月前、狭心症の疑いがあるということで検査入院をすることになった。検査の結果はやはり心臓の冠動脈の2箇所に血管狭窄が見つかり、そのまま入院してしまったのだ。 裕子と母親が乗った病院のエレベーターが6階に止まり、扉が開くとエレベーター前には見舞いに来た人と患者が面会する為のホールが有る。 二人がエレベーターを降りると偶然にもそのホールから病室へ向かう廊下を歩く父親の後姿があった。 「おとうさん!」 「なんだか幽霊みたいだね」訝しげに母親が言う。 猫背で両手を前に垂らして老人特有な小刻みな歩幅で足を進める姿をみて、思わず母親が言った言葉だった。 父親はこんな歩き方をしていただろうか?と裕子は自分に聞いた。 こんなふうでは無かったよ― 裕子と母親は後ろから早足で近づき父親の隣に並んだ。 「おとうさん、今日の具合はどうですか?」母親が声を掛けた。 父親は横目で二人を確認すると笑顔も無しに答えた。 「だいじょうぶ」聞き取り難い、か細い返事が返ってきた。 「どこに行ってきたの?」裕子が聞いた。     
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