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姉の恋人
「好みのタイプは?」
なんて、軽いジャブみたいな質問だと思う。女の子同士だったら、ちょっと親しくなれば会話のつなぎにだって登場しそうだ。
でも美桜は、そう聞かれると、ドキッとしてしまう。
「優しい人。私よりも背が高い人がいいかな。」
いたって普通の顔で、普通に答える。でも心の中に浮かぶのは、違うこと。
優しくて、私よりも背が高くて。それはもちろん。でもそれだけじゃ足りない。好きになる人はいつも、ちょっと唇が厚めの人。
でも美桜は、クチビルがちょっと厚めの人が好き、ということは言わない。それはちょっと挨拶を越えた返事だと思う。
なぜならクチビルというと、どこかやらしい感じがするから。
美桜にしても、好みのタイプというと、クチビルからキスを連想してしまう。でも別にやらしい意味じゃなくて単に好みの問題だ、美桜は心の中で言い訳する。
お姉ちゃんが連れてきた彼氏は、優しくて、背は高くないけど美桜よりは高い。そしてちょっと唇が厚めだった。初めて紹介された時、胸の中で何かがコトリと音を立てた気がした。
彼は美桜にも、彼女の妹として優しく接してくれる。出張に行けば、必ず美桜の家の分もお土産を忘れなかった。大体は漬物系とお菓子のしょっぱい物と甘い物の組み合わせだ。
でも沖縄に行った時には、琉球ガラスのグラスを買ってきてくれた。いろいろな色で染められた虹色のグラスだ。美桜の両手ですっぽりと包み込めるようなころんとした形が、可愛い。
その時は美桜のお父さんとお母さんにも、泡盛と泡盛を呑むグラスをセットで買ってきていたから、美桜が特別という訳ではない。
「なかなか、沖縄までは来ないから」
といつもよりも黒くなった顔で、ニコニコしていた。
「いい人だ…。」
と、美桜も思ったし、美桜の両親もそう思っていたはずだ。
ある時、いただいた泡盛を、綺麗な琉球グラスで飲んでいるお父さんとお母さんが、時折くつくつと笑いながらたわいも無い話をしていた。
そんなホッとちからの抜けた、穏やかな空気の中に、泡盛と琉球グラスが溶け込んでいた。気に入らない人からもらった物だったら、きっと見えない緊張感が生まれてしまうだろう。
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