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「美奈は、僕と付き合う前から、霜田というやつのこと、好きだったらしいね。」
何回目かに二人で会った時、公園のベンチで斉藤さんがポツリと言った。そして近寄ってきた鳩にポップコーンを投げた。
「そうですね…。お互いに気持ちを伝える前に、海外赴任が決まってしまったと言ってました。」
「そいつ、帰国して美奈が一人でいたら、告白しようと決めていたんだってさ。婚約中っていうのは、一人でいるうちにはいるのかなー……。」
斉藤さんはポップコーンを突っつく鳩に、さらにポップコーンをばらまく。他の鳩たちが気付いて、斉藤さんの手や肩に乗ってきた。
「うわっ」
隣に座っていた美桜も、とばっちりを受けて、思わず手を振って頭をかばう。
あわてて立ち上がった斉藤さんが、美桜の手を取って、ぐいっと引っ張って立ち上がらせた。手を繋いだまま、二人で鳩から走って逃げた。途中でゴミ箱を見つけて、ポップコーンの袋を突っ込む。
「びっくりしたねえ」
美桜は斉藤さんと顔を見合わせて笑った。走ったせいで、ハアハアと上がってしまった呼吸が落ち着いても、指の先から感じるドキドキが、とまらなかった。
「あっ、ごめんね。」
斉藤さんは手を離そうとしたけど、美桜は斉藤さんの手をキュッと握って離さなかった。
斉藤さんは困った顔をしていたけど、美桜の手を振りほどいたりはしなかった。一度開いた手を、そっと優しく握り直すと、何事もなかったように歩き始めた。
(私じゃダメですか?)
美桜は断られるのが怖くて聞けなかった。
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