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「美桜、斉藤さんとまだ会ったりしているの?」
母が聞いてきたのは、美奈と霜田さんの結婚が正式に決まった頃だった。
今度は日取りも、引出物も、ドレスもすぐに決まった。招待状ももうすぐ発送される。
「もう、斉藤さんと会うのはやめたら?」
「どうして?」
「だって…。あんなことがあったのに、変に見られるわよ。」
美桜はズルい、と思った。
ひどいことをしたのはお姉ちゃんなのに、お姉ちゃんではなくて、何も悪いことをしていない斉藤さんと私が、会うのはやめろ、と言われるのは理不尽だと思った。
「そんなのひどい」
美桜が言うと、母もそれ以上は何も言わなかった。こころよく思っていた斉藤さんに、一度ばかりか二度までも悲しい思いをさせるのは、さすがにしのびないと思ったのかもしれない。それに別に付き合っているという訳でもなさそうなのだから、無理に会わないようにさせなくてもよさそうだと判断したのかもしれなかった。
それでも美桜に釘を刺さずにはいられなかったのは、姉が結婚を破談した相手と妹が付き合ったりするのは、母には耐えがたい醜聞だということだろう。
美桜は母の気持ちもわからなくはなかった。しかし日に日に強くなる、斉藤さんへの思いをどうしたらいいのかわからなかった。
そしてもう一つ、美桜には悩んでいることがある。結婚式に美奈と斉藤さんにもらったネックレスをつけるかどうか、だ。
ネックレスをもらった時とても嬉しかったし、華やかで結婚式にもぴったりなデザインだ。美桜としては、付けたいのはやまやまだったけれど、斉藤さんとの結婚式で付けるように、とプレゼントしてくれた物だ。姉にしてみれば、霜田さんとの結婚式で目にしたくはないかもしれなかった。
「やっぱり付けない方がいいよね…。」
あのネックレスは美奈の目に付かないところで付けることにしよう。
そう決めたそばから、美奈の幸せオーラ全開の顔を見ると、斉藤さんに傾いている美桜の心には、(やっぱり付けて行っちゃおうかな。少しは斉藤さんの気持ちにもなればいいんだ)といういじわるな考えが浮かぶ。
しかし美奈が斉藤さんと結婚していたら、美桜は斉藤さんと二人で会うことはなかっただろう。美桜はため息をネックレスと一緒に宝石箱に閉じ込めた。
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