姉の恋人

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 斉藤さんとの関係は、鳩から手をつないで逃げてから足踏み状態が続いていた。斉藤さんは誘えば会ってくれるし、会えば楽しい。思い切って手を繋いでみても、そのまま歩いてくれる。  でもそれだけだ。  もし美桜から抱きついてみたら? キスしてみたら? どうなるだろう?  斉藤さんが美桜のことをどう思っているのかと考えると、美桜は胸が苦しくなる。  美桜と会っているとき、斉藤さんも楽しそうだ。それでも美桜は会っている間に必ず次に会う予定を立てるようにしている。面白そうな映画があるよ、とか天然の氷で出来たふわふわのかき氷が食べてみたいな、とか約束にもならないようなことだけど、連絡するきっかけになるような言葉を残しておく。  そうしておかないと、手を離したらすぐに消えていってしまうガス風船のように、斉藤さんがどこかへ消えてしまいそうで怖いのだ。  いつまでたっても手を繋ぐところから二人の関係は進まないから、斉藤さんの気持ちが自分にに向いている瞬間を数える癖がついてしまった。  例えば映画を観ていて、斉藤さんの柔らかい視線を感じる時。  多分、映画館の中は暗いから、斉藤さんは美桜が気付いていないと思っているだろう。でも美桜は秒速で斉藤さんの視線に気付いてしまう。そして映画に集中できなくなった。これがひとつ目。  それから向かい合って何かを食べている時。斉藤さんは必ず、美桜に「これも、食べてみる?」と自分の料理をくれる。だから美桜も、斉藤さんに 「私のも食べてみてください。」と取り分けてあげるのだ。  単純だけど、食べ物をくれるとか交換するというのは、愛情表現だと思う。だから美桜は斉藤さんがくれる物はなんでも、美味しさが五割増しに感じる。  「美桜ちゃんは美味しそうにたべるね。」  「そうですか?」    なんでもないことのように首を傾げながら、(それは斉藤さんがくれた食べ物だからです)と心の中で別の返事をして、ふたつめ。  そして歩いている時。手を繋ぐのは美桜からだけど、手を伸ばすと斉藤さんも、すっと手を出して繋いでくれるようになったこと。  手と手を組む恋人つなぎはしたことはないけど、手をはなすとき、斉藤さんの指が美桜の手のひらをカリッとなぞっていく時がある。  (斉藤さん…。人畜無害な顔してるのに、わざとですか?)  目を閉じて、胸の動悸が全身にはしるのをこらえて、みっつ。  
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