112人が本棚に入れています
本棚に追加
まだある。それはドライブしていた時。斉藤さんは運転していたので、前を向いていたけれど、美桜の話に時々、声を立てて笑っていた。
「もー、あの上司、パワハラなんですよ。面倒くさい作業とか、全部押しつけてくるし、細かい数字の入力してるのに、お茶をいれろとか言ってくるんですよ。」
と職場の出来事を大げさに嘆いてみせた時、信号が赤に変わって車が停まった。
斉藤さんは美桜をなだめるように、美桜の頭を軽くポンポンとした。
美桜は心臓が止まりそうになって、それからこれでもかというほど早くなった。美桜は斉藤さんがどんな顔でいるのか気になって、思い切ってチラッと横を見た。
すると、ちょうど美桜を覗きこんでいる斉藤さんと、目があった。斉藤さんの目が優しくて、信号が青にかわって、車が動き出すまでの1秒間、美桜は時間が止まってしまったような気がした。
「もしかしたら、斉藤さんも。」
美桜はいくつもいくつも、そう思える出来事を心の中で数えてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!