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(そういえばあの時、お姉ちゃんは二人からプレゼントって言っていたっけ。あのネックレスは斉藤さんからの初めてのプレゼントだったんだ)
「お姉ちゃんがオッケーなら、私はもちろん付けて行くよ。すごく気に入っていたの」
と美桜は笑顔を斉藤さんに向けた。
けれど、美桜の目に映ったのは、斉藤さんの泣き顔だった。涙は出ていなかったけど、泣いてる顔だった。
「どうしたの…?」
美桜が小さく聞くと、斉藤さんは美桜の手をきゅっと握った。
「美桜ちゃん、ありがとう。美桜ちゃんがいたから、美奈におめでとうって言えた。うらむ気持ちだけじゃなくて、違う気持ちがもてた。」
斉藤さんは、大きく息を吸い込んだ。
「美桜ちゃん、ごめんね。さよなら。僕のわがままだけど、もう、会わないようにしよう」
「なんで?やっぱり、私と会うと、お姉ちゃんを思い出して、つらいからですか?」
と美桜は母の言葉を思い出して言った。斉藤さんは首を横に振った。そして静かに優しく斉藤さんの声が美桜の耳に届いた。
「美桜ちゃんが、僕に向けてくれる好意が、どれだけ僕を救ってくれたかわからないよ。だから初めは、周りのことなんかどうでもよくて、美桜ちゃんに会って笑ってた」
「じゃあ、それでいいじゃないですか……」
と美桜は消えそうな声で訴えた。
「うん。いいかなって……思ってた。でも……美桜ちゃんが、僕を好きになってくれたら、美奈が……嫌がるかな、と。ごめん。真っ黒だよね。だけど実際に美桜ちゃんがまっすぐに気持ちを向けてくれるようになると、美桜ちゃんをだますのも悪くて。美桜ちゃんは何も悪くないのに……」
(全部、全部、嘘だったの?)
見つめてくれた目も、誘惑した指先も、優しい言葉をつむいでくれたくちびるも。
(お姉ちゃんへの当てつけのため)
音を立てる心臓がうるさい。そんなに強く打つから、痛い。痛い。痛い……。
「それに、それが狙いだったとはいえ、僕と美桜ちゃんが一緒にいたら、美奈はずっと負い目に思っていくことになる。好きだった人だから……幸せになってほしい気持ちもあるんだ。恨みきれなくて。霜田さんにしても、美奈の結婚式場まで予約していた元彼が、近くにいるってイヤだろうしね。」
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