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両親に結婚の報告をするとすぐに、美奈と大祐は結婚式場を決めてきた。丘の上のチャペルが人気の有名なホテルだ。
美奈にくっついて、見学をかねてホテルのランチに行ってきた美桜も、自分も結婚するなら同じホテルがいいな、と本気で思った程、素敵だった。
ところが結婚式の日取りを決めた頃から、式の準備が急に進まなくなった。
ウェディングドレスが決まらない。美奈の分の招待客のリストがなかなか出来ない。招待状のカードが決まらない。引出物も何度も変更する。
初めは、マリッジブルーですか? 焦らず楽しんで準備してくださいね、と言っていた、ウェディングプランナーさんも、笑顔は崩さないものの、そろそろ焦ってきたようだった。
「何か変だ…」
と思ったのは、もしかすると美桜が一番早かったかもしれない。なぜなら、その電話を取り次いだのが美桜だったからだ。
結婚式の日取りを決めて、1週間がたったころの事だ。家の電話がなった。自分や姉にかかってくる電話はほとんど携帯電話なので、両親のどちらかにかかってきた電話だろうと予想して美桜は電話を取った。
「美奈さん、いますか」
それでも受話器から聞こえてくる声が言った時には、めずらしいとは思ったものの、姉の職場の人が、美奈に用事があったのかな、と思う程度だった。
しかし電話に出た美奈は、
「わ! お久しぶりです!」
と、どこかはしゃいだような華やいだ声で話し始めた。そしてすぐに電話を切ったかと思うと、今度は携帯電話にかけ直してもらって、今度は自分の部屋でずいぶん長い時間、話し込んでいたのだ。
その日の夕食は、美奈は友達と食べることになったから、と家では食べなかった。
「海外赴任していた、霜田さんが、帰ってきたの。」
と翌朝、美奈は家族に嬉しそうに報告した。霜田さんは、美奈が就職したばかりの頃、新人教育係をしてくれた人だという。
美奈が仕事に慣れた頃、海外赴任の話があり、それっきりになっていたそうだ。
「でも、帰国したからって、会社の後輩の家に電話してくるかな? ちょっとなれなれしくない?」
と美桜が言うと、
「だって携帯電話は赴任先で壊れちゃって、連絡先とかなくしちゃったんだって」
と美奈は的外れな事を言う。もしかしたら、分かっていてわざとはぐらかしたのかもしれない。
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