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どれくらいの時間がたったのだろう。頭からかぶった枕のせいでくぐもって、言葉の分からない悲鳴のような声が、長い時間響いていた。
やがてドンドンドンッと足音荒く、美桜の部屋にお母さんが飛び込んできた。美桜の頭にかぶさっているクッションを、手荒くはぎ取って投げ捨てる。
「美桜! あんた、知っていたの!」
「し、知らない…。」
実際、美桜は階下でのやり取りさえ知らなかったが、母の剣幕に気おされて、怯えた目でそう言うしかなかった。
(でも知っていたのかもしれない)
階下でのやり取りを何も聞いていないのに、美奈が斉藤さんとの結婚をやめ、あの電話の霜田さんと結婚する、と宣言した事を直感していたのだから。私は心のどこかで気付いていて、気付かないふりをしていたのかもしれない、と美桜は思った。
姉と斉藤さんが壊れたことを嬉しく感じていることが、美桜は自分で恐ろしかった。姉と斉藤さんの破局に何も関わっていないのに、美桜の想いが二人を壊してしまったような気がした。
美桜の怯えた目を見て母は、はっと我に返った。
「ごめん、美桜…。お母さん、あまりにもびっくりしたもんだから…。ごめんね」
と言うと、肩をおとして部屋を出て行こうとした。
「さ、斉藤さんには…?」
そっとしておいた方がいいと思いつつも、美桜は聞かずにはいられなかった。
「うん…。もう言ったって。言って、了解してもらったって」
と震える小さな声で言った。
「いつ、言ったのかしら。一昨日、斉藤さんから電話があった時、結婚式の話をしちゃった。もし、もう美奈に、言われていたとしたら、お母さん、かわいそうなことしちゃった……」
と言うと、涙をぽろっとこぼした。
美桜は言葉を失って、母の肩にそっと触れた。
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