私の名前は、白雪姫

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 あれから、どれくらい経ったんだろう。 あの甘い毒を飲み込んでから、何日? 何カ月? 何年?  私の名前は、白雪姫。 自分的にはそこまで可愛いとか思っていなかったのに、そのせいでまるで逆恨みがちに毒を盛られてしまった。 しかも、周りのみんなは私のことを囲んでこういうの。 「どうして死んじゃったの? 白雪姫!」 って。  心臓、止まっているの? 私。 でもこんな風にみんなの声や気配を理解出来るの。 多分、仮死みたいなものなのかな。 眠っている感覚なの、私の中では。 ただ、ひたすら、眠っている。 だっておかしいでしょ? もしも本当に私が死んでいるのなら、体が腐って溶けてしまってもしかたがないはず。  あの日からどれくらいの時が経ったのかわからないけれど、毎日のようにみんなが私が眠る場所を、むせかえるほどの花でいっぱいにしてくれているみたいだもの。 腐った死体に、いつまでも花を手向けないでしょう? 私だってそれくらいわかるもん。 (あーあ。今すぐ体を起こして、みんなにご飯作りたいなぁ)  まわりのことがわかっているのに、何も出来ないこの状況。 (退屈すぎる) 目が開けば、景色が見える。 口が開けば、何か食べられる。 手が動けば、掃除が出来る。 足が動けば……。 頭の中だけは、ものすごく活発で、それが逆に辛くて。  何度目の心の中のため息をついた時だろう。 なんだかまわりがにぎやかになった。 「白雪姫は、こっちだよ」 「こっちだよ」 「こっちだ」 「あっちにいる」 「そっちだよね」 「あれだよ」 「これ、これ。これが白雪姫だ」 みんなの声がする。 誰かを私の元に案内している。 「……なんて可愛らしいんだ」 聞き覚えのない声。 「本当に死んでしまったのか? 彼女は」 その声の主にみんなが答える。 「死んじゃったんだよ」 「りんご食べたら、起きなくなった」 「眠ってるみたいに見えるよ」 「眠ってるはずがないよ。起きないじゃないか、ずっとずーっと」 「死んだのかな」 「死んだのかもしれない」 「わからない」 曖昧な返事に、少しの間を空けてから誰かがこういった。 「寝ているように、死んでいる。そういうことなのか?」 そうして沈黙になった。 そう言われても、みんなにもわからない状態だからだよね。 (この状況を一番知りたいのは、私だわ) そうみんなに直接言えたなら。 そう思った。
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