私の名前は、白雪姫

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「まずいか」 「まずいだろう」 「うん、まずい」 「そうか?」 「そうだろう」 「だって」 「だって」 誰かと誰かの声が重なって、それから。 「うら若き乙女の着替えをする役目を、年頃の王子にさせるだなんて」 なんてことを、言いだした。 (は? なに、どういうこと? 着替え? っていうか、王子が? なんで?) 頭の中で、七人の小人たちくらいにぎやかに一人会議になる。 「だいたいなんで参加していたのだ、王子よ」 「そうだ、そうだ」 参加していた? ……なにに? しばしの沈黙。 そして、短く返された言葉。 「じゃんけんだなんて、楽しそうだなって」 待って、ちょっと待って!待ってよ! じゃんけんで決めようとしていたの? 私の着替え当番を。 そのじゃんけんに、ただ楽しそうだってだけで何のじゃんけんかも知らずに参加しちゃう? (おかしいでしょ? この王子。……どんな王子かは、目を閉じているから見えないけど) 「では、王子。質問しよう」 「ん? なぁに?」 「まさかとは思うが、白雪姫の着替えのじゃんけんだったと知って、事態をする気はないか?」 そうだよね? それが普通だよね。 (あー、よかった。どんな人か知らないまでもなく、男の人に着せ替えされるのは恥ずかしいもの) 質問してくれた小人さんに感謝のキスをしたいくらいの気分。 呼吸をしているのか不明だけど、心の中で息をつく。 ホッとした感じで、ね。 でもそんな安堵感を、この王子はかんたんにブチ壊してくれた。 「じゃんけんは絶対なんでしょ? やるよ?俺」 あっけらかんとした、その物言いで。 (…………) 冗談じゃない! 誰か止めてよ、このおかしな人のことを。 誰か止める人はいないの? 「それはそうだけど」 「でも、なぁ」 「じゃんけんには従うべきだろう」 「そうか?」 「けど、白雪姫は乙女だ。乙女の着替えには細心の注意を払ってだな」 いいこと言ってくれている! そのまま行って! おねがい! 「目をつぶってするのはどうだ」 「見えなきゃ問題はないか」 えええええええ??? どういうこと? 見えなきゃいいって、間違ってどこか触っちゃったらどうするの? 「それもそうだな。それじゃ、我々がサポートをして、じゃんけんの勝者に」 「そうだな。王子は勝者だ」 話の流れが、一方向に整いつつある気配がする。 想像しただけで、頭が爆発しそう。
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