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「誰か何か言ったか?」
王子の声が近い。
真横にいるのが、間違いなく王子ね。
「何も言っていないぞ」
「そうだそうだ」
「それより、着替えだ。着替えこそ、占いの結果だ」
「そうだそうだ」
さっきはなしていたことだよね。それは私もきになってた。
どんな内容の占いだったの? って。
「白雪姫を週に一回きれいに整え、着替えをさせておくことで、あの時のあのままの姿で残しておける」
「そうだそうだ」
「あの時の、優しくて、時々うっかりする、可愛らしい白雪姫のままなのだ」
「そうだそうだ」
(……うっかりとかは、知らない人にいわなくてもいいんじゃなーい?)
着替え、か。それでこんなことになっているのね。
そうじゃなきゃ、きっとあっという間に朽ち果てたはずの体。
自分の体が腐っていたら、みんなが普段の生活の中に私を置いてくれているはずがない。
腐った死体なんて、気味悪いよ。
(あたしの体が、あの時のままなのなら)
生き返りたい。
みんなとまた暮らしたい。
くだらない話をして食べる朝食。
いってらっしゃいをして、掃除をして、何かを割って。
にぎやかな歌声が聴こえたら、おかえりなさいの時間。
楽しかった。
本当に楽しかった。
たとえお城に帰られなくなっても。
「……たぃ」
「ん? なんだって?」
王子の声がまた響く。
「なにがだ」
「なにもないぞ」
「さあ、着替えだ」
「…………空耳か」
繰り返される会話。
「…え……ぃ」
「……またか。それで、最初にどうすればいい? 脱がせればいいのか?」
「そうだ。まずはボタンをはずすのだ」
その時が近づいてくる。
生き返りたい。
嫌だ。
こんな、人形のような着替えも、誰か知らない人に触れられている自分も。
「…だ」
「ボタンは外せたぞ。次は?」
「このタオルで顔や体を拭いてから」
「これで、だな」
あったかいタオルの感触。
すこしぎこちなくて、もうちょっと強くてもいいのにとか思ってしまうほどにソッと拭いてくれている。
「体、とは?」
王子が質問を繰り返したそれに、小人さんたちが一斉に答える。
「全身だ。頭からつま先まで。前も後ろもすべて拭いている」
全身……。
からだのすべて。
想像しただけでおかしくなりそうになった。
「……い」
「ん? 誰か何か言ったか」
「我々は、なにも」
会話をしながら、王子のたどたどしい手がソコに触れようとした。
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