私の名前は、白雪姫

7/10
前へ
/10ページ
次へ
胸元の下着の中を、王子の手がゆるやかに動き、二つの小さなふくらみに触れかけた。 羞恥心でおかしくなりそうになった瞬間だ。 「いやあぁああああああ」 私の耳に聞こえたのは、自分の声。 「……はあっ、はあっはあっ」 ガバッと体を起こし、胸元に潜り込んでいたその手を引き抜く。 「エッチ!」 開いていた胸元のシャツを無理矢理集めて、胸元を隠す。 「恥ずかしいから、こんなことしないで」 初対面の彼に怒鳴りつける。そんなお姫様、どこにもいないよ。 いろんな気持ちが一気にあふれてしまう。 「なによ、これ。どういうこと? 誰かわからない人に、私を自由にさせないで」 「し、らゆ……き」 「聞いてる? ねえ。私にだって選ぶ権利っていうものが」 「白雪だ」 「ねえってば」 「生き返った!」 「死んでない! 生きてた! みんなの声、ずっと聞こえていた!」 「白雪だ、いつものガミガミ白雪だ」 「ガミガミってそっちでしょ?」 「白雪だ、ぼくらのお姫様だ」 「そうだそうだ」 「もう! みんなってば」 「おかえり!白雪姫っっ」 ああ……これだ。自由がなくなるその前まであった日常だ。 「……もう! みんなのばか。ただいまだってば」 淋しさが一気に埋まっていく。 嬉しさが胸にあふれてくる。 「ずっと待ってたよ」 「うん! あたしも。また一緒に暮らせるのね、みんなと」 胸がいっぱいになりながらそう告げると、みんなが一斉に王子の方を見る。 そういえば、すっかり忘れてた。王子の存在。 「違うの? みんなと暮らせないの?」 てっきり大歓迎なムードなんだと思っていたのに、様子がおかしい。 みんなが見つめる先にいる王子の表情は、曇っている。 「ねえ……。どういうこと?」 みんなに向けて放った言葉に、王子が一言だけ。 「ふざけるな」 返事をして、顔を真っ赤にした。 「別に私はふざけてなんか」 「そうじゃない」 ふざけてなんかいないと言おうとした言葉をぶった切られる。 「そうじゃないって、意味がまったく」 「ちくしょう…」 「ねえ、会話にならない」 「おれはこの日を待ち望んで」 「え?」 この日? 私が目覚める日のこと? 今日、この日に何があるというの? さっぱり状況がつかめない。 「ねえ、代わりに説明してくれない?」 「それはちょっと……」 「なあ」 「ああ」 場がざわつく。 これ以上どうしたらいいの? 私。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加