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「夫を助けたくないのか、このままでは死罪だぞ」孫左衛門の声に香乃の動きが止まった。手は容赦なく腿からふくらはぎを伝い這い上がる。
「本当に助けてくれるのですか」
「わしは嘘は言わん」
「離縁すれば、贅沢をさせてくださるのですね」
「もちろんだとも」賤しい顔で頷く。
「このままではいやです。縛めを解いてください」
「そうか決心したか」
孫左衛門は舌舐めずりしながら香乃を抱き起こして縄を解いた。
手が秘所に伸びてきた。香乃が羞恥を表し孫左衛門に身を任せる。耳元で「ああー」とせつない吐息を吐く。孫左衛門は満足そうな顔で唇を吸おうと半眼になる。
途端に香乃は力いっぱい孫左衛門を押しのけた。仰向けに倒れた孫左衛門は火鉢に頭をぶつける。素早く床の間へ走り刀を手にして斬りつけるが火鉢に当たり、孫左衛門には届かなかった。
「ヒーッ、だ、誰か!」孫左衛門の声に襖が開き、化鳥の如く一人の男が部屋へ入ると、香乃の二の太刀を払った。ピーンという音と共に香乃の手から刀がこぼれ落ちた。
――このひとは以前夫に勝負を挑んできたひと。悔しさに唇を噛みしめた。
「か、かまわぬ、殺せ」孫左衛門の引き攣った声と同時に香乃の体に衝撃が走った。
――かえで、お前さま……。
プツッと縄が切れた時、「あっ」と心の中の何かがはじけた。惣介は不安を振り払うように「おい、頼みがある」と見張りを呼んだ。
見張り三人は顔を見合わせ、ひとりが面倒臭そうに近寄ってきた。
「なんだ!」と顔を覗きこんだ時、思いっきり足を払った。もんどり打って倒れた男から刀を奪いこじりで鳩尾を突くと白目を剥いた。火の傍にいた二人は、大変だ! 出会え、出会えと叫んでいる。続々と集まってきた。濡れ縁の上に梶川栄之進の慌てる姿が眼に飛び込んできた。惣介は刀を抜いて鞘を捨てた。梶川栄之進に狙いを定めて突き進む。
「こ、殺せ!」梶川栄之進が引きつった声で怒鳴ると、男どもが向かってきた。刀を一閃するたびに血飛沫をあげて倒れる。「どりゃ」と槍が伸びるが、身をひねり槍を両断する。その背に鋭い刀風が迫る。右に払って腰を落として横一線に薙ぐと声もたてずに倒れ伏す。右からの一撃を仰け反ってかわし、左下から右上へ斬り上げる。
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