疫病草

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 香織とはネットで出会った。  出会い系サイトではなく,純粋に趣味の掲示板に色々書き込んでいた俺のコメントに対して一つひとつ丁寧な返信をしてくれたのが彼女だった。最初にコメントがついたのが,ネイティブ・アメリカンが儀式に使うペヨーテという植物についてだった。  ペヨーテは日本名で烏羽玉(うばたま)といい強い幻覚作用を引き起こす成分が含まれた植物で,香織がやけに興味を示したのが印象的だった。最初は物好きな男のなりすましだと思っていたが,やりとりを続けていくうちに実際に会おうとなり,そこで初めて香織が本当に女性だとわかった。  それでも実際に会うまではネカマかも知れないし,女性であったとしても一緒にいるのが恥ずかしくなるような容姿かも知れないと,いちいち警戒した。唯一,共通の趣味があることだけが頼りで,万が一ネカマだったとしても,ここまできたらそこはすべて受け入れて,ことを荒立てるようなまねはせず,自分のなかの最低限のマナーだけは守ろうと思った。  何度かやり取りを繰り返し,お互いに都合のよい待ち合わせ場所が東京駅だったので,間違いのないよう八重洲地下中央口改札内にある「銀の鈴」前で待ち合わせることにした。  そんな香織と初めて会ったときの感想は,「微妙……」だった。  アッシュ系の茶髪をひとつにまとめ,今どきのファッションに身を包んだ,お肌にトラブルがある十九歳の大学生だった。  幼いころから水泳をしていたそうで,細身のわりには筋肉質で肩がしっかりしていた。  女性だったという安心感と想像していたよりも普通の容姿だったことから,すぐに親しくなり,週一回くらいのペースで会うようになった。  一ヵ月もしないうちに待ち合わせ場所がラブホテル近くのカフェへと変わり,面倒になってくると駅で待ち合わせをしてコンビニで買い物をしてからラブホテルに直行するようになった。  最初のころは俺もお金を出していたが,徐々に香織が支払うようになり,いつの間にか完全に香織がすべての支払いをするようになった。  お肌がよく見えない薄暗い照明のお店で食事をしていると,角度によって可愛く見え,香織に惚れそうになったこともあった。  だが,まったくタイプではない香織は,俺にとってただの便利なだけの女だった。いつの間にか,共通の趣味について話すこともなくなりセックスをするためだけに会うようになっていった。
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