疫病草

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「え……? 香織……?」  全体的に暗くてよく見えなかったが,真っ暗な部屋の中央に明らかに香織がいた。美しい白い肌と女性らしい曲線が真っ暗な闇に浮かび上がっていたが,顔は真っ黒で見えなかった。 「えっと……なに……これ……?」  とぼけた声が出たが,完全に腰が抜けて動けなかった。スマホを投げ捨てようと思っても,身体が動かず香織が映る画面から視線を外せなかった。 「ゆう君……」  突然,後ろから耳元で囁かれると,グチャグチャになった顔の香織が立っていた。 「な……なんで……? どっから入った……? ってか,いつからここに?」  いままで心霊なんて信じていなかったし,幽霊の存在すらバカにしていたのに目の前に香織がいる現状をすんなりと受け入れている自分がいた。 「な……なぁ……香織……。お前,いまなにやってんだ……? げ……元気か……?」  香織はグラグラと身体を動かしたかと思うと,脚の間から黒い液体を大量に垂らした。その液体に混ざって肉塊のようなものが見えたが,直視することができなかった。 「あ……あ……出ちゃダメなのに……」  床に散乱した肉塊と黒い液体を両腕で掻き集めるようにしている香織の姿は,もはや人間とは思えなかった。グチャグチャに潰れた顔はどこに目があり,どこが鼻なのかもわからなかった。 「み……みんな,ゆう君に紹介してもらった人たち……でも,わたしに優しくなかった人たち……ひどいことしかしない人たち……」 「え……?」  香織は俺を見上げるように顔をあげると,ゆっくりと近づいてきた。そして俺を抱きしめるようにして耳元で囁いた。
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