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ラブホテルを出ると,駅まで一緒に歩いた。夜の人混み特有の不快な空気が身体の中に無理矢理入ってくるようで,歩いているだけで胸が苦しくなった。
とくに会話もないまま,並んで歩いているだけなのに,知り合いに香織と一緒にいるところを見られたら恥ずかしいと思い俯いてしまった。
暗いラブホ街の薄灯りで見る香織は,どこにでもいる普通の女の子だった。この薄暗さが肌を重ねた男と女を狂わせるのかと思うと,香織の横顔を見ただけでその肌から小さな蟲が大量に出てくるような気がして全身に鳥肌がたった。
こんな香織も肌にトラブルさえなければ,俺みたいな男に出会わずに済んだろうし,きっと普通の恋愛をしていたのにと,歩きながら他人事のように考えていた。
駅に向かう香織は終始不安そうだったが,淳史が俺の幼馴染だと知ると「じゃあ,怖くないよね……ゆう君の友達だもんね……」と必死に自分を納得させようとしているのがわかった。
俺はそんな香織が面倒臭くなり「いいから行って来い」とだけ言い,雑踏の中で人混みに飲まれていく香織を見送った。
香織は無理やり笑顔をつくり俺に手を振ると,駅へ向かう人混みの中へと消えていった。
セフレを幼馴染に貸し出すことで不思議な気持ちになりながら,電車に乗って帰宅する間,何度も香織から連絡がきていないかスマホをチェックしている自分に気が付いた。
本当に香織と淳史が会っているのだろうか?
本当に2人がセックスをしているのだろうか?
淳史が香織に酷いことをしていないだろうか?
まとまらない考えが頭の中でグルグルと回り続けた。
嫉妬とも違う不思議な感情が胸を締め付け,怒りにも似たやり場のない不快感が俺をいっぱいにした。
思い出すのは香織の感じている表情ばかりだが,それもすぐに汚い肌が微かな罪悪感を搔き消した。
バックで責めているときの猫背を何度も注意し,背中を反らせてケツを上げろとスパンキングしながら怒鳴ったことを思い出した。あんなに従順でなんでも言うこと聞き,なにをされても怒らない香織を思うと胸が苦しくなると同時に,淳史に貸し出したことで自分でもよくわからない真っ黒い気持ちが腹の底で渦巻いていた。
暗い道を歩き,家に帰ってからも,ほんの数時間前に見た人混みへと消えてゆく香織の表情が頭から離れず,眠れない夜を過ごした。ベッドの中で何度も香織のことを考え,出会ったころを思い出しながらマスターベーションをした。
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