ハナコとひろし

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 対岸と同じように雑草が生い茂る川べりの、草の生えていないところ、コンクリートがむき出しになった地点に腰を下ろして、僕はガルシア=マルケスの短編集を開いていた。  雨に打ち落とされ、地上の人間の見世物になった、年老いた天使の話だった。  風が繰り返し吹き寄せるうえに、本のページがあまりに白いので、晴れの日の下で読むのはまぶしすぎ、僕はずっと顔をしかめていた。  世間は休日ではないが、自宅でピアノ教室を開き、朝から昼にかけては自由時間で、夕方から夜にかけて仕事をするという生活スタイルの僕は、朝食から昼食までの時間、近所の川べりで読書をすると決めている。雨が降らなければの話だが。  目の端で地面をアリが歩き回るのが見える。ズボンのすそに足をかけて這いのぼってくるのを指ではじきながら、僕は活字を目で追う。  首が痛くなったので顔を上げて空を仰いだ。雲一つない快晴だった。気持ちの良い春の日差しを全身に受けて、脳内物質が活性化するのを感じる。日光浴は僕の健康法である。日陰にいると気が滅入るのだ。
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