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ドアを少しだけ開けると、その向こうにはまん丸の坊主頭が浮かんでいた。
「おす。具合大丈夫か? これお見舞い」
「わお、ありがとー。ちょうど喉乾いてたの。飲み物ある?」
「ん……ちょ、ここ開けて」
その言葉を無視し、ドアチェーンを掛けたまま隙間からレジ袋を奪い取った。
そして玄関に立ったまま物色する。しばらくすると、カズが十センチ程の隙間から手を伸ばし、私の二の腕をつついた。
「おい、ちょっと。ドア開けろよ」
不満そうに眉根を寄せている。私は意地悪く、彼の手の届かない距離まで下がった。
その困った顔を見るのが楽しいのだ。
「やあだ。病人の、乙女の部屋に上がり込んでナニする気?」
「アホか。どうせ部屋散らかってるんだろ。久しぶりに来たんだから、片付けくらいしてってやるよ」
「いらない。お部屋はとってもキレイですうー」
熱は、と聞かれたので、もう下がった、と答えた。ため息だけが部屋の中に入り込んでくる。
「……こんな夜中に、今にも死にそうなメールしておいてその対応はないんじゃないの」
レジ袋の中身は、スポーツドリンクとりんごヨーグルト、それとチーズの菓子パンだった。さすが、カズは私の好きなものを心得ている。にぶちんのくせに、こういう時だけ気が利いているのが憎らしい。
顔を上げると、カズの背後、蛍光灯の光がチラチラと瞬いているのが見えた。
あんなにちっぽけな明かりなのに、太陽みたいに光っている。眩しくてたまらない。
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