【一片】

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【一片】

「秀、私は君が好き……。付き合ってくれませんか? こんな容姿だし、幼馴染の子がいるのもわかってる。だけど、私には秀しかいないの……」  高校二年生の冬休みの前に、真冬は秀に告白した。いつの間にか、一緒にいるのが当たり前になっていて、友達でしかいられないのが嫌になった。特別な人でいたい、たった一人でいたい。祈るような気持ちで言葉を発していた。秀は恥ずかしそうに笑いながら「お願いします」と言ってくれた。それを聞いた真冬は嬉しくて悲しくて涙が溢れた。気持ちが重なるということは、それだけ別れが辛くなる。言わなければ、過ぎていく事かもしれない。言わなければ、傷つけなくても済むかもしれない。しかし、真冬はそれを含めて好きでいて欲しかった。 「私……っ! 小さい頃から心臓が弱くて……っ! 何回も何回も病院に行かなきゃいけないの……っ! いっぱい遊びたい……っ! 触れたいって思ってる! 来年の冬まで関係を続けられたなら……。その時は私をフッて欲しい……。きっと、三年生になったら時間も合わないだろうし、何より……、卒業したら一緒にいられないから……っ!」  涙で秀の顔がはっきり見えなかった。歪んで、滲んで揺れていた。自分勝手な言い分だとわかっていた。卒業と同時に秀と出会わせてくれた街を出る。秀にそう伝えても、優しく頭を撫でてくれる。だから、甘えてしまうのだったーー  吐いた息は白く舞い上がり、肌を切るような寒風に流されて消える。胸に大きな穴が空いたような、パズルのピースを一つ無くしてしまったような虚無感。真冬は秀の好意を知っていながら、自分の都合だけで傍に寄り添っていた。あの日、今日のような木枯らしが吹く中、部活の仲間達と真剣な顔でグランドを走る姿を見ていたのを思い出す。寒さで鼻先を赤くしながら、頭から蒸気を立たせているのを不思議と目で追っていた。
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