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長い沈黙
あの日から、私は立花と喋っていない。
あの、騒々しい笑い声もすぐそばで、まぶしい笑顔も相変わらず私に向けてくるけれど、どうもあの授業態度が嫌だった。
周りから見れば、
「どれだけ幼稚な理由で嫌いになっているの」
と言われそうなくらいの理由。
でも私はやっぱり授業と休み時間のメリハリを付けている人が良かった。
最初の頃は、立花本人も私がただ単に拗ねていると思って、手を振ってきたり、ちょっかいをかけてきたりしていた。
その度に私は嫌がって次第に無視していった。
そして、立花本人も何もしなくなってきた。
私たちが無視を決め込んで1ヶ月と半月が経った。
自分から始めた事なのに、急に立花も無視し始めたらムカついてきた。
本当に自分勝手だと思う。
きっと忘れられないんだと思う。
それでも、私はまだ意地を張っていた。
何をしたいんだろう、私は。
まだあっちに自分の気持ちさえも言ってないのに、嫌いになったり。
私はもう一度立花海弥を好きになりたいのだろうか。
そんなことを考えながら、私は今に至る。
そう、今日は待ちに待った席替えの日。
朝から私と蘭はそわそわしていた。
「花織と同じ班がいいなぁ。」
「ウチも!」
2人して誰が一緒か考えていると、先生が入ってきた。
一斉にみんなが先生の持っている紙に群がる、もちろん私達も。
「あっー!
ウチこの人と隣や~!」
興奮するクラスメイトをよそに私と蘭は自分たちの席を探した。
「えっーと…
あった!
花織は、一班や!
隣は…おっ!
立花さんやん!
あっ、でも班違うね…」
蘭のつぶやきとおかげで私はどん底に落ちた。
立花と隣?
嫌だ嫌だ。
きっと蘭が急ぎ過ぎただけで、間違えただけ。
もう一度自分で確認すると、蘭があっていた。
「海弥ー!
お前一班だぞ!」
誰かが大声で立花に報告をしている。
「俺の隣は?」
「國末だって!」
私の名前を聞いた瞬間、立花が顔を引きつらせた。そして、大股で私の隣に来た。
教卓の前で約1ヶ月と半月ぶりにじっくりと見た顔。私たちの中に長い沈黙が訪れた。
まるで、今までの時間をまとめて流しているみたいに。
何か言うべきか。
目を泳がせながら固まっていると、立花は無言で私の横を通り過ぎた。
みんなで机をガチャガチャいわせながら、新しい班の位置についた。
お互いに何も言わないけれど、私はこの距離が一番好きで、一番幸せ。
「ギリギリのところであなたを想っていても良いですか。」
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