第一章 棟方アキラ

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「帝都警察庁の監察医は優秀ですから。まぁ……死体でも『オメガ特有の質』が強く出ていたから、やり易かったと……監察医談ですが」 捜査員の説明に、何人かが笑った。 (何が可笑しい) 怒鳴り付けてやりたい感情を抑える為に、ファイルに目をやる。 同じようにファイルを見ている遥汰が、毒づいた。 「こういうグロい写真を見ながら、よく笑えるよな……」 ファイルに添付されている写真を見ながら、遥汰はため息を吐く。 身元が割れない為の工作。 顔の特長がわからないように、損壊され、無惨な姿を晒している女性の遺体――。 尊厳もなにもあったもんじゃない――。 「東野君」 ファイルから目を離さず、遥汰に向かって言う。 「感傷は判断を鈍らせるわよ。分析官を目指してるなら……」 「はいはい、余計な情は厳禁、ですよね?」 「わかってるなら……」 「てか、イライラしながら映像見てた先輩にそれを言われても……」 苦笑する遥汰を一瞥し、 「ごもっとも」 皮肉げにそう返す。
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