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「どうぞ。夜は長いですから」
貴志さんが私をからかうかのようにして、頬に軽く指を当てた。
紅くなりそうな顔を見られたくなくて、素早く立ち上がると、スマホの着信音が鳴った。
――貴志さんのスマホから鳴ってる。
「すみません」
そう言って、貴志さんがスマホに出た。
「はい……。ああ、君か……」
私の方に少しだけ視線を動かして、すぐに会話に戻る。
「ああ……。その件なら、志田君の担当だけど……。うん……。うん……」
電話の相手に返答しながら、困惑したような表情をこちらに向けた。
「いや、それはわかってるけど……。君も知ってるだろ? 久しぶりに彼女に会えて……。ああ、確かにその件も大事なことだけど……」
貴志さんが小さくため息を吐いて──
「わかった……。すぐにそちらに向かうから。……いや、君が謝ることじゃない。瑠璃子さんの判断は正しいと思うよ」
『瑠璃子』──秘書の……久瀬さんからの電話──。
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