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あの日、たまたま部活の片付けが長引いてしまったから。
あの日、たまたま机の中に数学の教科書を置いてきてしまったことに気づいたから。
だから、私は聞いてしまったのだ。
私の好きだった声が、「僕と付き合ってくれませんか」と言うのを。
私はくるりと背を向けて元来た道を歩き始めた。
告白された女の子も、告白の結果も、知りたくはなかった。せめて、今だけは。
忘れ物も、今日くらい手元になくても困ることはなかったのに。
足早に校門を抜けると、夕方の空は鮮やかに眩しかった。
誰にも話したことはなかった。
私の中だけで少しずつ暖められていった、淡い好意と期待だった。
涙もまだ出ないだろう、それでも。
私は自分のためにシュークリームを買って帰るのだ。
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