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「キリコ選手!今日頑張ってね!」
ショータはSサイズのTシャツの代金とキリコにだけに向けられた声援をキリコに差し出し笑顔で返す。
他人の為の百の声援より たった1人の応援が与えてくれる力は凄まじい。
こんな人の為にレスラーは戦うのだ。断じて相手を痛め付けて楽しむ様な輩に好きにさせる訳にはいかない。
「ありがとう!絶対勝つからね!」
小さなレスラーと小さなファンが硬い握手を交わす。
混んできたのでショータは物販を後にする。
人混みに流され抜け出た先には不穏な集団が異様に盛り上がっている。
それぞれ柄の悪いTシャツに おどろおどろしいピエロマスク 手には凄まじい騒音を奏でるエアーホォン
彼らはメヒコ・コロニーから大将の晴れ舞台を見に来た人組ファン。
「ひゃはぁ!!これからはマーダーの時代だぁ!!」
「マーダー最高ぅ!!!!」
「棚端なんてもう終わりだ!!これからはマーダーの天下だぁ!!」
そう騒ぎながら棚端ファンや同じ人組ファンにちょっかいを出し今にもトラブルが起きそうだ。
「......違うよ...」
学校でも街でも不良は怖くて関わりたくは無い。
しかしここはプロレス会場 非日常を味わうワンダーランドだ。
今はショータもその夢の国の住人だ。オマケにさっき極上の勇気を授かったのだ。こんなチンピラなんて怖かない。
「今日はキリコが勝つんだ!マーダーの時代なんか来ないし!棚端の時代なんて関係ない!キリコは今日必ず勝つんだぁ!!」
それだけ啖呵を切りその場を立ち去るショータ。やっぱり怖いもんは怖い。しかし譲れない事は子供にもある。
誰もがショータの言葉を笑ったが 少なくともこの広い広いルナドームに1人でもキリコの勝利を信じてるファンがいる。
「負ける訳にはいかない...」
物販を引き上げたキリコの顔が引き締まる。
これまでのキャリアではありえないビックマッチ。
しかし緊張は無い。
あるのはマーダーに対する怒り
あるのはプロレスに対する誇り
あるのはファンから貰った勇気
その3つを握り締めキリコは闘いの準備を進める。
今はキリコの全てを掛けた戦いが始まろうとしていた。
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