第3話 乗り越えた女達

2/16
65人が本棚に入れています
本棚に追加
/459ページ
彼女を取り巻く状況は少しも好転しないまま数年の時が過ぎた。 すっかり引きこもりになったレイの楽しみといえばネットサーフィンぐらい。 親は醜いわが子を哀れんでいるのか 外に出て恥を晒すぐらいなら家で好きにして貰っている方がいいと思ったのか高性能端末など何でも買ってくれた。 それでレイが見るのは目を覆いたくなるような凄惨な暴行映像。 自分よりも酷い目にあっている人を見たい 自分もこれぐらい酷い目にあえば誰か心配してくれるのではないか? 誰にも必要とされない自分など こんな目にあって死んでしまえば逆に親も安心するのでは無いか。 そんな事ばかり考えていた。 この日の検索ボックスには「絞殺」の文字。 ネットの海に広がる古今東西の首絞め映像。 随分関連動画を乗り継いだ先にある文字が浮かび上がる。 「スペ女 脅威にして華麗!サブミッションの鬼 小角アオイ」 華麗 今まで見ていた動画には決してないワードにレイは思わず再生ボタンを押す。 そこに映し出されていたのは自分よりも遥かに大きな身体の美女がパンツとチェストガードのみを纏い白いリングでしのぎを削る戦いを繰り広げていた。 「何これ...」 動画の関連ワードには「プロレス」の文字 それがレイのプロレスとの出会い。 惑星マクラウドには全くと言っていいほどプロレスが浸透していない。 男子の平均身長が150センチ足らずのマクラウド星人 オマケに小柄が美女の条件のこの惑星にとってスペ女などブスのバーゲンセールみたいな物だ。流行りっこない。 レイにとっても画面の向こうの世界は全くの異次元だった。 巨体を理由にいじめられる自分よりも大きな女が汗みどろになりながら殴り合い 関節を捻り合う。そんな野蛮な行為なのに見る者全ては楽しそうでリングは暖かい歓声に包まれている。 そして勝負が終われば闘った2人は惜しみのない拍手を浴びる。 「こんな世界があるんだ...凄い...」 なにか見てはいけない物を見た時のような足が浮つく興奮。 検索ボックスの絞殺の文字を消しプロレスと打ち込み検索。 映し出される百花繚乱のレスラー達。 皆自分よりも大きく ごつく 美しく 皆に愛されていた。 「私もここでなら...誰かに必要とされるかな...」 闇に閉ざされていつレイの心に希望の光が一筋射し込んだ。
/459ページ

最初のコメントを投稿しよう!