失恋モデル

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 ドキドキするのにじんわりと胸が熱くなってくる。この気持ち、私には覚えがあった。だけど、前よりもずっと自然で温かい。 「でも、これでもう終わりだね。絵が描き終わってたってバレちゃったから」  胸がズキリと痛んだ。 「それに、昨日会った先輩。たぶん相羽のこと好きだよ。時々相羽のこと見てたから。よかったじゃん」  森くんは私から顔を背けてそう言った。森くんにそんな風に言われたくなくて、じわりと目が熱くなる。 「……先輩のことは、もう好きじゃない」 「え?」  言葉を絞り出すと、森くんが私を見た。そんな森くんに見えるように、私は自分が描かれた絵を指差す。 「だって、見てよ。この私」  森くんが絵に顔を向けた。恥ずかしさから手が震える。 「私がこんな表情をしたのは森くんにだからだよ」 「相羽……」  ゆっくりと森くんが振り返った。私は勇気を出して森くんの顔を真正面に捉える。 「これからも私の絵を描いてよ」  森くんは顔をくしゃっと歪めて不器用に笑う。 「ありがとう。ずっと、好きな人をモデルにして絵を描きたいと思っていたんだ」  好きな人、という言葉に胸が高鳴る。 「私も、森くんにだったら描いてもらいたい。好きだから……」  気持ちを自覚すると、それは自然と言葉になって外に出てきた。佐倉先輩を好きだった時とは違う、暖かい気持ちだ。  森くんは柔らかく微笑む。 「これからもよろしくね」  それは、私が絵を描けたならば、描いて残しておきたいような、甘い笑顔だった。  失恋した先にあったのは、温かい恋。二人だけの美術室で、私は今日も大好きな人の絵のモデルを続けている。
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