2人が本棚に入れています
本棚に追加
ドキドキするのにじんわりと胸が熱くなってくる。この気持ち、私には覚えがあった。だけど、前よりもずっと自然で温かい。
「でも、これでもう終わりだね。絵が描き終わってたってバレちゃったから」
胸がズキリと痛んだ。
「それに、昨日会った先輩。たぶん相羽のこと好きだよ。時々相羽のこと見てたから。よかったじゃん」
森くんは私から顔を背けてそう言った。森くんにそんな風に言われたくなくて、じわりと目が熱くなる。
「……先輩のことは、もう好きじゃない」
「え?」
言葉を絞り出すと、森くんが私を見た。そんな森くんに見えるように、私は自分が描かれた絵を指差す。
「だって、見てよ。この私」
森くんが絵に顔を向けた。恥ずかしさから手が震える。
「私がこんな表情をしたのは森くんにだからだよ」
「相羽……」
ゆっくりと森くんが振り返った。私は勇気を出して森くんの顔を真正面に捉える。
「これからも私の絵を描いてよ」
森くんは顔をくしゃっと歪めて不器用に笑う。
「ありがとう。ずっと、好きな人をモデルにして絵を描きたいと思っていたんだ」
好きな人、という言葉に胸が高鳴る。
「私も、森くんにだったら描いてもらいたい。好きだから……」
気持ちを自覚すると、それは自然と言葉になって外に出てきた。佐倉先輩を好きだった時とは違う、暖かい気持ちだ。
森くんは柔らかく微笑む。
「これからもよろしくね」
それは、私が絵を描けたならば、描いて残しておきたいような、甘い笑顔だった。
失恋した先にあったのは、温かい恋。二人だけの美術室で、私は今日も大好きな人の絵のモデルを続けている。
最初のコメントを投稿しよう!