一本の電話

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一本の電話

鈴音も春一の気配が変わったのを敏感に察したのだろう。 さっきまで皿を洗っていた手を止める。 これ幸いと、危険な割れ物をそっと鈴音の手から奪い取った。 鈴音の目を見つめながら、 「部屋に行こう」 感情を抑えながら誘う。 鈴音を怖がらせたくはない。 「鈴音。これは後にして、俺の部屋に行こう」 鈴音は、 「……」 頬を赤らめて春一を見つめて、それから、 ――コクリ、 うなずいてくれた。 春一は鈴音の手をそっと握る。 そのまま部屋へ直行、 しようとした瞬間――、 春一のスマホが破裂するように鳴り響いた。 「ヒャッ!」 鈴音が小さな悲鳴をあげる。 春一だって、一瞬心臓が止まりそうになった。 自分のスマホの設定ながら、その大音量が、真っぷたつにしたくなるほど腹立たしい。 さすがにこれでは気づかないフリも出来ない。 『こんな時に誰だよ』 鈴音に見えないように音のない舌打ちをひとつして、スマホを手に取る。 仕事の電話なら出ないわけにはいかないが、せっかく作ったムードが台無しだ。 くだらない話だったら、たとえ相手が編集長でも一発殴ってやる。 それぐらいの物騒な気持ちでスマホを見れば、画面に並んでいたのは数字の羅列。 登録していない番号だ。 「……」 これは春一の 仕事上、ないこともないので、ふてくされた声で通話を繋げる。 「――はい」 「アキのお兄さん!」 間もなく、相手は絶叫した。
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