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後ろ向き
時々、どこか違うところに逃げてしまいたくなる。
と言っても、逃げ場なんかどこにもないのに。
◆
女性の“ネコ”は一部では重宝されているらしい。
高額の登録をしてなお、投薬をしなければ、“ネコ”は死ぬしかない。
その金を稼がせてやっているし、薬では押さえきれない発情を慰めてやっている。
慈善事業を建前に行われる性風俗は、利用者の優越感と、それから女性を買うという罪悪感を感じさせない為人気らしい。
男は、そんな利用方法すらない。
嘲笑とほんの少しの哀れみ、そんなもので踏みつけられるしかない存在になるのだ。
いつ自分がなるかもしれない立場なのに。
俺だって、病院で診断を受けて、実際、耳が生えていることに気が付いた瞬間まで自分だってそうなるとは思わなかった。
妹が“ネコ”になってなお、自分がそうなるとは思わなかったのだから、俺も大して変わらない。
だから、めったに外に出掛けることも無いし、今まで生活していて“ネコ”を見ることも殆ど無かった。
登録が済んでなお、社会に溶け込むために耳と尻尾を切る“ネコ”も多いと聞く。
妹もその予定だ。
妹は将来の為にも何とかしてあげたいと思っている。
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