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それが無理なのは分かっているから、せめて最後に穏やかに別れの挨拶をしたかった。
連絡をするといつでも良いから顔を見せろと少し苛立ったような返信があった。
心配してくれているという事が伝わって泣きそうになる。
最後に好きって言っちゃ駄目だよな。
それこそ、木藤に迷惑をかけるだけだ。
重い足取りのままおれは一人暮らしをしている木藤のマンションへと向かった。
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木藤がスーツ姿で「なあ、堤のお母さんどっちの方が好きそう?」なんて言いながら贈答用の箱に入った菓子を指さす。
昨日、木藤の家で、ネコになった事を話してそうして……。そうして、木藤に告白されて。木藤がおれの登録をすると提案してくれて、両親にご挨拶ををしたいと言ってくれた。
「おれの為に、木藤が無理をする事無いんだよ?」
出かける前におれが言うと、木藤は掴みかかって
「無理なんてしてる訳ねーだろ。好きだって言ったよな。ずっと一緒に居たいって言ったよな。」
と怒鳴られた。
本当に甘えてしまっていいのだろうか。
お金は何年かかっても絶対に返したい。
スーツ姿で家への手土産を選ぶ木藤を見つめる。
この前、文学賞を獲った時に作ったというスーツは木藤に良く似合っていて高校生には見えない。
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