1

2/7
270人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
木藤 要は、友人である堤 誠一が訪ねてくるのを待っていた。 木藤と堤は高校の同級生で友人だが、こんな時間に堤が訪ねてくるのは珍しい。 まあ、木頭は一人暮らしなので問題は無いのだが、堤は真面目というか非常識な行動をかなり嫌う傾向があるので、このような深夜の来訪は初めてではないだろうか?と最近、妹のことでバタバタしていて会うことはおろか電話連絡すら滞っていた友人に思いを馳せる。 堤の妹の加奈は小学生で、およそ一か月前『ネコ』の病状が発病した。 5000万という金額は高額ではあるが、まだ年端もいかない女の子を収容所送りにするわけにはいかないと、堤の両親は自宅の土地建物を売り、方々で借金をし、また、堤とその母もアルバイト・パートを掛け持ちする等し、何とか工面したと聞いたのはつい先日だった。 木藤は正直なぜその時俺を頼ってくれなかったのであろうか?という一種の行き場のない苛立ちを感じていた。 通常の高校生であれば頼れなくて当然ではあるが、木藤は中学生の頃、小説家としてデビュー後、売れっ子として引く手も数多なのである。 ―――ピンポーン 静かな室内に、インターフォンの音が響き、待っていた客人の訪れを告げる。     
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!