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“ネコ”から人間に戻りたかった。
誰かの助けが無ければ生きていけない存在でいたくは無かった。
◆
「旅行にでも行こうか。」
要が突然言い出したのは、2月のことだった。
どこに行くにしても、オフシーズンですいているし、小説の次回作のインスピレーションのためにどこかへ行ってみたいと言っていた。
「要一人で行ってきても、いいんだよ。」
俺が言うと、「ばーか。」と返された。
「誠一と行きたいんだよ。」
たまには二人でのんびりしよう。
と言われ、思わず要を見た。
「ああ、やっと俺のところを見てくれた。」
眉根を寄せているのに笑っている、そんな不思議な表情を要はしていた。
「何を……。」
「ここのところ、何かを悩んでいただろう?」
そう言われて、ようやく要がすべてに気が付いていることを知った。
けれど、今まで何も言わずそっとしておいてくれたことも分かった。
「ゴメン。」
要の手が垂れてしまったネコ耳をそっと撫でる。
「怖いんだ。
何もできず、外に行くのも億劫で、要がいなければ生きてくこともできない。」
泣きたくなりながらそれだけ言うと、要は、二度三度と俺の耳と頭を撫でた。
「嬉しいな。」
要の言葉は思ってもみないものだった。
「俺がいないと生きていけないなんて、最高だろう?」
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