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そうかそれはよかった。だが、それならなぜ、堤はこんなに思いつめているのだろう。 沈黙が二人の間を流れる。 しきりにかぶっているニットキャップを気にしているようだが、室内で脱がないのだろうか?そんな疑問がふと木藤の頭の片隅をよぎるが言い出せる雰囲気では無い。 ようやく、意を決したように堤が木藤を見つめる。 震える指先でニットキャップを取った。 そこに現れたのはクロネコの様な耳だった。 堤の全く染めたことない黒い短髪にとてもよく似合っていて木藤は思わずゴクリと唾を飲み込む。堤の頭を撫でまわしたい欲求に駆られるが、我慢した。 「あー、見ての通り、耳としっぽが生えてきた。」 堤は、さも何でもないように耳を指さし背中から耳と同じ黒色の尻尾を取り出し、手で分かりやすいように尻尾を引っぱり出して持ち上げた。 何でも無いはずが無いのに、こんな時までこいつは、自分の弱さであるとか不安を木藤に見せようとしないのか、無性に苛立ち、木藤の眉間に皺が寄る。 木藤の苛立ちを感じたのか堤は 「妹より俺の方が後の発症で良かったよ。本当に。」 等とふざけたことを抜かす。妹が収容所送りになるより自分がなった方がいいと本気で思っているであろうことは予想がつく。     
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