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妹である、加奈の登録費用を捻出する時点で、ぎりぎりどころの騒ぎではなかったようなので、堤の分までさらにというのは無理だと判断しての事だろう。 何故だ、何故こいつは俺を頼ろうとしない。 「お前も登録すればいいだろう。」 木藤の口からするりと、言葉が出た。 今まで、他愛も無い事を話してますよーという顔をしていた堤の顔がみるみる歪んでいく。 「これ以上、両親に負担はかけられないだろ。加奈の定期検診だってタダってわけじゃないんだ……。」 堤が絞り出すように声を出した。 「金なら俺が出す。」 お前のためならそんなはした金、屁でもねーんだよ。 木藤は遣る瀬無い心持ちの中はっきりと言った。 「木藤にそこまでしてもらう理由が無いだろ。」 理由なら、いくらでも用意してやるよ、お前がいなければ俺の人生意味が無いんだよ。ああそうさ、俺はお前のことが好きだ、世界で一番大切だよ。木藤はそう思ったが、今それを言ってしまうと堤の事だ、恩を感じて、自分のためのお人形さんになってしまうだろう。それでは駄目だ、木藤の欲しいものはそれではない。 「な?気を遣わせて悪いな。」 違うそうじゃない。 「好きだ。」 木藤の口から溢れてしまった言葉。 堤はいぶかしげな顔をしながら「それはどういう意味だ?」と聞いてくる。 やっちまったどころの騒ぎではないが、こうなれば仕方がない。     
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