Side male 1

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   あの人に触れる指先が震えるようになったのはいつからだろう。  タバコの煙が立ち昇ることなくそこら中を淀ませていてオレは来たなあと思う。大体週に一度、多い時は週に三、四度、ここに通い始めてどのくらいになるだろう。通い初めの頃からここはちっとも変わらない。道端の至るところにできた小さな水溜りには得体の知れない油と煙草のフィルターが浮かび、街のネオンを受けて虹色に光る。改造した車の排気、安っぽい揚げ油とそのにおい、きつい香水と整髪料の香料。小動物の食いちぎったビニール袋、そこから漏れる生ゴミの異臭。アルコール、深酒の結果の誰かの汚物、すえたようなにおい。それらのいろいろなものが汚濁したまま拡散することも浄化されることもなく流れている。散らばるピンクチラシや割引券が水を吸ってアスファルトに貼りついたまま朽ちようとしている。その上にまた散る紙切れ。  喧噪。
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